ネガフィルムの性質とスキャンの仕組み

写真1 見た目のカラーネガ

上記の写真はカラー・ネガフィルムをポジフィルムと同じように(階調を反転させずに)スキャンした画像です。いわゆる「見た目」の状態です。

写真3 読みとったネガの階調反転

この画像は写真1のネガフィルム画像の階調を反転させたものです。

ポジフィルムでは、入力となる光とフィルム上の露光レベルは、ですべて一致しています。(ということにを前提にしています)

ところがネガフィルムでは、の各色ごとに露光レベルが異なっていますので、単純な階調反転では、この写真のように色味や階調が正常に再現されません。

具体的には、黒も白も青っぽく写っていますし、全般にコントラストが低いと感じる画像です。
また、写真の周囲にある枠の部分は、露光していない部分ですから、階調反転後には本来ピュアブラックになるはずの部分ですが、ここに色がついていて、階調も少し明るめになっています。

(階調反転前の)この色味と階調がネガフィルムのベースになるもので、これをキャストといい、フィルムのメーカーだけでなく、フィルム形式ごとに違いがあります。

階調を反転したときに正確な色を再現させるためには、ネガフィルムそのままの状態の画像からキャストの色調・階調成分を除去する必要があります。

図1 キャスト除去前ネガ画像のR・G・Bごとの明度レベル



この図は、ネガフィルムそのままの画像の各色成分ごとに「完全に暗い(黒の部分)」から「完全に明るい(白の部分)」までのレベル分布のヒストグラムを示したものです。山が高い場所はそのレベルを持っているピクセル(点)の数がより多いことを示しています。

一般に写真は黒のポイントと、白のポイントを持っています。ですから、正しい状態の画像が持っているレベルの分布は、に分解しても、各色ごとにレベルの最も低い部分と、レベルの最も高い部分の各レベルは概ね一致した位置になるはずです。

ところが上の図では、ごとに最も暗い部分と最も明るい部分が、それぞれバラバラのレベルに位置していることがわかります。

各図の黒三角と白三角の図形が示している部分を本来のレベル(図としては黒三角の部分を一番左側に、白三角の部分を一番右に)になるよう調整すれば、正しい色と、明度が得られることになります。

上記の青チャネルを例にとると、入力(補正前)の121レベルを255レベルに引っ張り上げ、13レベルを逆に0レベルに引き下げます。

この操作のことを、「キャスト除去する」といいます。

参考:

コンピューターで扱う画像は、一般にの各色を0〜255までの256段階(8ビット)であつかいます。ですから、再現可能な色の数は256の三乗(24ビット)で約1670万色です。
上のレベル分布では、
の各色のレベル分布がそれぞれ狭い範囲に偏っています。これを、それぞれ0〜255までの範囲に、まるで蛇腹を広げるように拡張させるわけですから、当然隙間が生じてしまいます。本来、なだらかな色変化をするはずのものが、段のついた色変化になるわけです。
これを
トーンジャンプといいます。

同じ色調でトーンジャンプが起こるのはまだいいとしても、各レベルごとに元の偏りの幅が違います。すなわち、蛇腹を広げたときの幅を同じにしても、縮めた状態の蛇腹の幅が違うわけですから、各レベルごとにトーンジャンプの段階のサイズが違うわけです。
これは完成した画像の上でそれぞれ色味の少し違った点々=ノイズとなって現れます。ノイズのある画像はスクリーンが一枚間にはいっているような、透明感に欠けた印象になります。

スキャナ側でどれほど光学系の補正を行っても、デジタル系にしか出来ない補正もあります。
デジタル系で
を個別に操作すると多かれ少なかれノイズの発生が避けられません。
従って、上級のスキャナでは1.5倍の36ビットでデータを出力し、補正プログラム(Adobe Photoshopなど)でトーンの補正を行った後、24ビットの標準データに戻すといった操作で、ノイズの発生を極力抑制しています。

写真5 キャストを除去した画像を階調反転

キャストを除去したネガ画像を反転すると、このように概ね正常な色味と階調を持った画像が得られます。

一般に印画紙に焼いた写真と非常によく似ていることがわかります。

但し、実際にフィルムに露光させたの光と印画紙に記録された状態の色味には、分野にかかわらずエネルギー変換時には必ず発生する、非線形歪みが原因となって、大きな歪みが蓄積されています。

特に、ネガから印画紙への変換では光の3原色()から、色の3原色()への変換を行うため、歪みがより大きくなります。

ポジフィルムによる画像が鮮明に見えるのは、この変換が光の3原色()同士で行われるためで、歪みの量も比較的小さくなります。

図2 トーンカーブによる補正

そこで、本来の条件に戻すために、各色のレベル変化を補正する必要が生じます。

本来なら各色ごとに補正曲線は異なりますが、ここでは便宜的に明度の補正のみを示します。

写真6 トーンカーブ補正後の画像

これで、色合いと明度に関しては実際の印象にかなり近づいたものになりますが、全体にのっぺりとした画質の印象からもわかるとおり、手動操作で元の色を再現する場合は、スキャナー側で行っている、光学系とデジタル系を併用したキャスト除去に比べて出来上がりのクオリティーが相当に低下します。

具体的には、本来各色ごとに光学系で分担している歪みの除去を、一括のデータとしてデジタルで行っているために、量子化(デジタル化)ノイズが大きいこと。また、ノイズと情報の峻別が困難なためディティールの情報喪失が大きい、特にハイライトとシャドー域でこれが顕著であることなどがあります。

キャスト除去は本来スキャナメーカーが高度な技術を注いでいる分野であって、実際にスキャナーが行っているのはこのように単純なものではありません。

スキャナ側で、キャスト除去を行った画像

この画像は、スキャナ側で光学系とデジタル系を併用してキャスト除去を行った例です。
使用した機材は、EPSON製フラットベッド・スキャナES-8000で、透過原稿ユニットを取り付けてあります。
フィルムフォルダも使わず、ネガフィルムを原稿台の上に置いてスキャンしただけのものですが、フラットベッド・スキャナでも、フィルムから直接スキャンすると、このようにまるでポジフィルムで撮影したように鮮烈な画像が得られます。


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新規作成日:2002年12月15日/最終更新日:2002年12月15日